特定技能制度は、深刻な人手不足に対応するために創設された制度で、即戦力となる外国人材を受け入れられます。
しかし、受け入れ形態には厳格なルールがあり、特に「派遣雇用」が認められるかどうかは制度の根幹に関わる重要なポイントです。
本記事では、特定技能外国人を派遣として雇用できるのか、その可否とともに、企業が受け入れる際の要件や注意点についてわかりやすく解説します。
特定技能とは?
特定技能は、深刻な人手不足が懸念される日本国内の16分野において、一定の専門性・技能を持つ外国人を即戦力として受け入れるための在留資格です。2018年の改正出入国管理法で創設され、2019年4月から運用が始まりました。
雇用先企業は、必要な試験合格や支援体制構築など、一定の要件を満たすことで特定技能外国人を採用できます。
特定技能には「1号」と「2号」と呼ばれる区分があり、それぞれの特徴・違いは以下の通りです。
項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
---|---|---|
在留期間 | 通算5年まで | 更新回数・期間の上限なし |
技能水準 | 相当程度の知識・経験 | 熟練技能、指導・管理を行うレベル |
日本語試験 | 必要(JLPT N4/JFT-A2相当) | 原則不要(一部分野を除く) |
支援体制 | 受入れ・登録支援機関による支援義務あり | 支援計画の策定・実施は不要 |
家族帯同 | 原則不可 | 条件付きで可能(配偶者・子) |
永住権 | 原則不可 | 要件を満たせば可能性あり |
特定技能1号と2号の違いは、在留期間・技能水準・支援体制・家族帯同の可否など、受け入れる企業にとっても重要な判断基準となります。
まず、1号は在留期間が通算5年までと制限されており、相当程度の技能と日常会話レベルの日本語能力が求められます。
一方の2号は、熟練した技能を持つ人材が対象で在留期間に上限がなく、永続的な雇用が可能です。さらに、1号では企業による生活支援が義務付けられていますが、2号には支援義務がなくなります。
家族の帯同についても、1号は原則不可であるのに対し、2号では一定条件を満たせば配偶者や子どもの帯同が認められています。
特定技能1号は日本国内で働く人材として学ぶ意味合いも含まれた資格、2号は継続・管理・家族帯同を見据えたより上位の資格なのが特徴です。
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特定技能の受け入れ可能業種
特定技能の受け入れ可能業種は以下の16分野です
分野 | おもな業務内容 |
---|---|
介護 | 身体介護・関連支援 |
ビルクリーニング | オフィスビル・商業施設などの清掃 |
工業製品製造業 | 製造ライン機器操作 |
建設 | 型枠・内装・設備工事 |
造船・舶用工業 | 溶接・塗装・機械加工 |
自動車整備 | 点検・整備・部品取付 |
航空 | グランドハンドリング・整備 |
宿泊 | フロント・接客・施設企画 |
農業 | 耕種・畜産管理・集出荷 |
漁業 | 漁具整備・作業補助 |
飲食料品製造業 | 加工・製造ライン |
外食業 | 調理・接客・店舗業務 |
自動車運送業 | トラック・バス・タクシー運転 |
鉄道 | 運転・駅務・保守 |
林業 | 育林・伐採・機械操作 |
木材産業 | 製材・加工・品質管理 |
上記の各分野には、試験内容・業務区分・技術経験など、固有の受け入れ要件があり、雇用時には必ず「当該分野の運用要領」や「省庁告示」を確認する必要があります。
特に、建設業と介護業は人数制限や区分制限がある点で他分野と異なりますが、それ以外の14分野は、人数上限なしで受け入れが可能です。
企業が特定技能外国人を採用する際は、まずは該当分野の受け入れ基準を正確に把握することが不可欠です。根拠となる法令や運用要領に基づき、制度を活用して戦略的に人材確保を進めましょう。
各分野ごとの詳しい受け入れ条件は以下の資料を参考にしてください。
特定技能の雇用形態
特定技能は、即戦力として安定的な労働力を提供する目的のため、雇用形態は週5日以上、1週間あたり30時間以上、年間217日以上といったフルタイム労働が求められます。
そのため、アルバイトや短時間パート、通常の派遣契約は原則として認められていません。また、雇用契約書では給与や福利厚生は日本人と同等以上としなければなりません。
特定技能で派遣が認められる業種
特定技能で派遣形態の雇用が認められるのは、農業と漁業の2業種のみです。
農業と漁業で派遣が認められている理由は以下の通りです。
- 収穫や漁獲の時期が地域や作物によって異なり、繁忙期と閑散期の波が大きい
- 産地ごとに繁忙時期がずれるため、複数の現場で人手を融通する必要がある
農業もしくは漁業に携わる事業者で派遣が認められるためには、派遣元(派遣会社など)と派遣先(農家・漁業者)が法令に基づく要件を満たす必要があります。派遣元・派遣先が満たすべき要件については次項にて解説します。
特定技能外国人を派遣社員として受け入れるための要件
特定技能外国人を派遣社員として受け入れるためには、派遣元・派遣先双方が法令に基づく要件を満たす必要があります。
ここでは、それらの要件について解説します。
- 特定技能外国人を派遣社員として受け入れるための要件
-
- 派遣先企業が特定技能人材を受け入れるための条件
- 派遣元事業者として必要な要件
派遣先企業が特定技能人材を受け入れるための条件
農業・漁業分野において、特定技能外国人を派遣社員(派遣先企業)として受け入れる際の共通の具体的な要件は以下の通りです。
- 労働・社会保険・税法を適切に遵守していること
- 直近1年以内に、同種業務の従業員を解雇していないこと
- 過去1年以内に、外国人労働者の行方不明(失踪)を起こしていないこと
- 法令違反歴や欠格事由がないこと(例:刑罰歴等)
- 協議会の調査・聴取等に協力すること(漁業協議会・農業協議会など)
なお、上記の要件は派遣元企業にも共通しており、派遣で採用するには派遣元・派遣先双方が順守しなければなりません。
また、農業には以下の個別の要件も求められます。
【農業】
- 過去5年以内に、同一労働者を6か月以上継続雇用した実績があること(技能実習生含む)
- 派遣先責任者講習等を受講した者を派遣先責任者に選任していること
農業・漁業で派遣形態を用いるには、派遣元・派遣先いずれも共通の基準を満たしつつ、適切な受け入れ体制を整えることが、円滑な人材採用の実現に必要です。
派遣元事業者として必要な要件
農業・漁業分野で派遣元事業者として満たす必要がある条件は以下の通りです。
- 当該分野または付随業務に従事している個人・団体であること
- 地方公共団体、またはそれに該当する者(例:第三セクター)が資本金の過半数を出資していること
- 地方公共団体の職員や関係者が役員・実質的に関与していること
また、農業の場合は「国家戦略特別区域法に基づく特定機関である」点も追加で満たす必要があります。
この特定機関は、国家戦略特区内での農業支援受け入れ事業を行う法人であり、所管行政庁および協議会により適格性が確認された組織が該当します。
派遣元事業者は、法的・制度的な要件を満たしてはじめて、特定技能外国人を派遣社員として農業・漁業分野で送り出せます。
特定技能外国人を派遣雇用する時の注意点
特定技能外国人を派遣雇用する時の注意点は以下の通りです。
ここでは、上記の注意点について解説します。
- 特定技能外国人を派遣社員として受け入れるための要件
-
- 協議会への加盟義務がある
- 派遣可能地域に気を付ける
- 労働者派遣法等、派遣に関する関係する法令の遵守
- 受け入れる際に費用がかかる
協議会への加盟義務がある
特定技能外国人を派遣社員として受け入れる際には、派遣元事業者に「協議会への加盟義務」が課せられます。
特定技能制度では、分野ごとに「特定技能協議会」が設置されており、農業や漁業などの分野で派遣を行う場合は、それぞれの協議会に個別に加盟する必要があります。
また、加盟義務があるのは「派遣元事業者」であり、「派遣先企業」には加盟義務はありません。ただし、派遣先であっても協議会からの調査や報告要請に対しては協力義務が課せられており、帳簿提出や実地調査への対応などを求められる場合があります。
また、派遣元事業者は、特定技能外国人の受け入れが開始されてから原則4ヶ月以内に、協議会への加盟を完了させなければなりません。
協議会制度は、制度全体の適正な運用と、受け入れ側の法令遵守・支援体制の整備を確保するために設けられており、派遣元事業者は必ず加盟手続きを行い、協議会との連携を図る必要があります。
派遣可能地域に気を付ける
特定技能外国人を派遣雇用する際には、派遣先地域の選定が重要です。労働者派遣法では、派遣元の責任者が日帰りで対応できる範囲内に派遣先を限定することが義務付けられています。
例えば、沖縄の派遣元から青森の企業へ派遣するなど、あまりにも遠方となる地域への派遣は制度上認められません。
万が一、派遣先が遠方すぎて即時の対処が困難な場合には、トラブル対応の遅延や法令違反と見なされる可能性もあります。
そのため、企業が特定技能外国人を派遣で活用する際には、派遣可能地域を明確に定めた上で契約書にも盛り込み、トラブル対応体制や費用負担のルールも事前に整備しておくことが重要です。
労働者派遣法等、派遣に関する関係する法令の遵守
特定技能外国人を派遣雇用する際には、労働者派遣法をはじめとした関係法令の厳格な遵守が求められます。特定技能の派遣では、制度上の在留資格要件に加え、派遣に関する法律の規定を満たさなければなりません。
もし制度上と派遣法で要件が異なる場合は、より厳しい方を優先して適用します。例えば、特定技能制度では最大在留可能期間は5年ですが、派遣法では基本3年までの派遣期間しか認められないため、この3年ルールが適用されます。
また、派遣先企業には派遣先管理台帳の作成と保管義務があり、派遣終了後3年間保管しなければなりません。特定技能外国人を派遣で受け入れる場合は、単に入管法上の条件を満たすだけでなく、国内の労働関係法令にも適合する必要があります。
派遣元・派遣先のいずれもが法令順守を徹底し、適切な管理体制を構築すれば、トラブル防止と安定的な外国人雇用が実現できます。
詳細をさらに確認されたい場合は、以下の厚生労働省の公式解説「労働者派遣法の改正について」を参照ください。
受け入れる際に費用がかかる
特定技能外国人を派遣雇用する際には、「初期費用・継続費用・派遣特有のマージン」がかかります。
派遣雇用の際にかかる費用の内訳は以下の通りです。
項目 | 概要 |
---|---|
初期費用 | 在留資格申請費用および企業側が特定技能外国人の住居を用意する場合は住居の準備費用も必要 |
継続費用 | 1年ごとに在留期間更新費用がかかる |
派遣特有のマージン | 派遣会社によって金額は異なるため、事前確認が必須 |
派遣契約では上記の費用負担の内訳を明確にし、契約書に反映させたうえで、外部委託の費用や派遣元マージンも詳細に精査・交渉する必要があります。
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特定技能外国人派遣のまとめ
特定技能制度は、即戦力となる外国人材を受け入れるための枠組みとして、2019年の制度開始以降、幅広い業種で活用が進んでいます。
その中でも「派遣雇用」は一部業種において例外的に認められており、企業が柔軟な人材活用を図る上で有効な手段です。しかし、派遣で特定技能外国人を受け入れるには、直接雇用と比べてより複雑な制度運用と法令遵守が求められます。
また、受け入れには在留資格の申請費用や住居の準備費用、継続的な在留更新費用に加え、派遣会社へのマージンなどの費用面の負担も伴います。
経営者視点で特に意識すべきなのは、「制度上可能でも、全ての派遣が最適とは限らない」点です。法令違反があった場合は在留資格の取り消しや事業停止など重大なリスクを伴うため、制度理解・適正な契約・現場対応体制の構築が不可欠です。
派遣での受け入れを検討する企業は、制度の趣旨を理解し、派遣元との連携や支援体制の整備、そしてトラブル時の対応力まで含めた「総合的な雇用マネジメント」を行うことが求められます。
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