外国人エンジニアの雇用には「技術・人文知識・国際業務」などの特定在留資格が必要です。正しい手順と書類準備により、スムーズな採用と法的リスクの回避ができます。
本記事では在留資格の種類と違い、ビザ取得の具体的手順について解説します。企業が準備すべき書類一覧や雇用時の注意点もまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
在留資格とは?
在留資格は、外国人が日本で合法的に滞在・活動するために必要な法的地位です。活動内容や滞在の目的に応じて様々な種類があり、企業での就労や学業、家族滞在など多岐に渡ります。
法務省が定める主要な在留資格の一覧は以下の通りです。
在留資格 | 活動内容 | 該当例 | 在留期間 |
---|---|---|---|
技術・人文知識・国際業務 | 専門的な知識や技術を必要とする業務 | エンジニア、デザイナー等 | 1年、3年、5年 |
高度専門職 | 高度な専門能力を持ち経済発展に寄与する活動 | 研究者、企業の管理職等 | 5年、無期限 |
留学 | 大学等の教育機関での学業 | 学生 | 数年 |
家族滞在 | 在留外国人の配偶者や子供の扶養 | 配偶者、子供 | 1年、3年 |
各資格は活動内容に基づき細かく分類されており、滞在期間も異なります。エンジニアとして働く場合は「技術・人文知識・国際業務」が最も一般的な在留資格となります。
有効な在留資格を持たない活動は法令違反となり、処罰や強制退去の原因となるため適切な資格の取得が必要です。詳細な在留資格の種類や要件については、法務省の在留資格一覧表をご確認ください。
在留資格とビザの違い
在留資格とビザは、外国人が日本で滞在・就労するために必要な異なる許可の種類です。在留資格は日本での活動内容を示し、ビザは日本への入国許可を意味します。
ビザと在留資格の役割と管理機関の違いは、以下の通りです。
ビザ | 在留資格 | |
---|---|---|
意味 | 外国人の日本入国許可 | 日本入国後の活動内容を決定 |
管轄 | 外務省・大使館 | 法務省・入国管理局 |
取得方法 | 各国の日本大使館等 | 日本国内で申請・審査 |
役割 | 入国のお墨付き | 活動範囲や滞在理由の認定 |
有効期間 | 一般的に短期(最大90日等) | 活動に応じて1年~無期限など |
ビザは渡航の際に必要で、在留資格は入国後の滞在や就労の基盤となります。混同しないことが重要で、どちらも適切な手続きを経て取得する必要があります。
ビザに関する詳細な申請方法や必要書類については、以下を参考にしてください。
外国人エンジニアが就労可能な主な在留資格
外国人エンジニアが日本で働く場合、以下の在留資格が選択肢となります。
どの資格も就労内容や要件に違いがあり、状況に応じた選択が必要です。詳しく解説します。
- 外国人エンジニアが就労可能な主な在留資格
-
- 技術・人文・国際業務
- 高度専門職
- 特定活動
- 身分系在留資格
技術・人文・国際業務
技術・人文・国際業務の在留資格は、日本のエンジニアとして就職する際に最も一般的です。情報処理やシステム開発、国際的な業務など幅広い職種が対象となります。
応募者は大学等で関連分野の学位取得、もしくは3年以上の実務経験が必要とされます。たとえば、IT企業でソフトウェア開発に従事する場合、在留資格での就労が標準的です。
申請内容や業務内容は明確に規定されているため、要件充足をしっかり確認するのが重要です。
高度専門職
高度専門職は高度な専門知識や技術、豊富なキャリアを持つ外国人を対象とした在留資格です。「ポイント制」による審査方式が設けられており、学歴・職歴・年収などで合計が一定点以上であれば認定されます。
研究職や最先端技術開発職、新規事業部門のリーダーなどが対象です。家族帯同や永住申請条件の緩和、企業支援といった優遇措置が受けられます。
特定活動
特定活動の在留資格は、法務大臣が個別に指定した活動内容に適した場合に付与されます。対象となるケースは、インターンシップやワーキングホリデー、特定分野による就労など多岐にわたります。
決められた範囲内でのみ就労が許可されるので、内容や期間の制約を理解しておくことが必要です。制度利用には、該当する「特定活動告示」に沿って申請書類や証拠資料の提出が求められます。
身分系在留資格
身分系在留資格は、日本人の配偶者や永住者などに与えられるカテゴリーです。就労内容に特別な制限がなく、幅広い職種で働ける点が特徴です。
たとえば、日本で結婚した外国人エンジニアや永住権を取得した人は、企業選択や転職も自由に行えます。働く期間の延長やビザ更新も柔軟な制度になっています。
外国人エンジニアに必要な「技術・人文知識・国際業務」の取得要件
海外から日本で就職を目指すエンジニアが「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得するには、以下の基準を満たす必要があります。
制度改定や細かい条件も頻繁に見直されるため、公式ガイドや最新情報を都度参照して準備することが大切です。詳しく解説します。
- 「技術・人文知識・国際業務」の取得要件
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- 求められる学歴要件
- 必要な実務要件
- 満たすべき資格要件
求められる学歴要件
外国人エンジニアが「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得するには、専攻分野と業務内容の関連性が重要な審査ポイントとなります。理工系分野の学位取得が基本条件であり、機械工学・電気工学・情報工学・化学工学などが該当します。
学歴要件の詳細は以下の通りです。
学歴区分 | 要件内容 | 注意点 |
---|---|---|
大学卒業 | 理工系分野の学士号以上 | 専攻と業務の関連性が必要 |
短期大学・専門学校 | 日本の技術分野修了 | 学位取得可能な学校に限定 |
海外の専門学校 | 日本の基準に適合する場合のみ | 基準に合わない場合は不認定 |
学歴要件を満たさない場合として「学士」等の学位が取得できない学校の卒業や、海外の専門学校で日本の基準と合わない場合が挙げられます。申請前には専攻内容と職務内容の整合性を確認し、証明書類を正確に準備することが重要です。
必要な実務要件
学歴要件を満たさない場合でも、10年以上の正規雇用での実務経験があれば在留資格申請が可能となります。対象となる職務内容はソフトウェア開発、ネットワーク設計、システム構築・管理などの専門技術業務に限定されます。
実務経験の要件は以下の通りです。
雇用形態 | 必要年数 | 証明書類 |
---|---|---|
正社員・契約社員 | 10年以上 | 在職証明書、職務内容証明書 |
アルバイト・パート | 対象外 | – |
関連業務経験 | 職務内容の詳細が必要 | 会社発行の証明書 |
アルバイトやパートは対象外となり、正社員・契約社員としての経験のみがカウントされる点に注意が必要です。単に「社会人歴が長い」だけではカウントされず、職務内容の詳細証明が求められます。
満たすべき資格要件
関連分野の高度な専門資格を保持していると、審査において有利に働くケースがあります。国際的に認められた技術資格は、学歴や実務経験を補完する要素として評価される場合があります。
認定される主な資格は以下の通りです。
資格種類 | 例 |
---|---|
ネットワーク系 | Cisco Certified Network Associate(CCNA) |
システム系 | Microsoft Certified Solutions Associate(MCSA) |
その他IT系 | 各種ベンダー認定資格 |
上記の資格は難易度が高く保持者が少ないのが現状ですが、取得により申請時の加点要素となります。資格証明書は申請書類とともに必ず提出し、審査での優位性を確保することが可能です。
【入国前】外国人エンジニアが就労ビザの取得手順
日本でエンジニアとして働く外国人を海外から受け入れる際、就労ビザの取得には以下の段階を踏む必要があります。
詳しく解説します。
- 就労ビザの取得手順
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- 雇用契約の締結
- 在留資格認定証明書の申請
- 認定証明書の送付
- ビザの申請(本人が対応)
- ビザの発給
- 日本入国と在留カード受取
1. 雇用契約の締結
企業は外国人エンジニアとの間で、採用前に雇用契約を正式に結びます。契約書は、日本語とエンジニアの母国語の両言語で作成するのが望ましいです。
在留資格取得が契約有効化の条件である旨を契約書に明記すれば、トラブル回避につながります。勤務地や業務内容、給与などを具体的に示し、採用者にもわかりやすく説明しておくことが必要です。
2. 在留資格認定証明書の申請
雇用契約締結後、企業または指定代理人が地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書を申請します。海外在住のエンジニアの場合、本人に代わって日本国内の企業が申請を行う仕組みとなっています。
申請時に提出する主な書類は以下の通りです。
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 雇用契約書および労働条件通知書
- 会社の登記事項証明書と定款の写し
- 決算書や損益計算書などの経営資料
審査期間は標準で1〜3か月程度ですが、書類不備や追加資料要求があるとさらに延長される場合があります。事前準備を怠ると手続き全体が遅延するため、必要書類を確実に揃えることが重要です。
3. 認定証明書の送付
在留資格認定証明書が発行されたら、企業は速やかにエンジニア本人へ原本を送付します。 2023年以降は紙面だけでなく、メールやPDFでの転送も選択できるようになりました。
オンライン発行の場合は、入管オンラインシステムで「電子交付希望」を選ぶとメールが送信されます。オンラインの利便性により、国際郵送の遅延や原本紛失などリスクも減少しました。
受領後は本人がメール等で受取確認を行い、次のビザ申請段階へ進みます。
4. ビザの申請(本人が対応)
認定証明書を受け取った外国人本人が、現地の日本大使館または領事館でビザ申請を行います。ビザ申請で提出する主な書類は以下の通りです。
- 有効なパスポート
- 証明写真(規定サイズ)
- 在留資格認定証明書(原本またはデータ)
- ビザ申請書
- その他大使館指定の追加書類
現地によっては代理業者経由での手続きが定められている場合もあるため、最新の案内を確認することが重要です。
就労ビザの審査期間はどのくらいかかる?在留期間や必要書類も解説
5. ビザの発給
書類や内容に問題がなければ、ビザは受理日の翌日から5営業日ほどで発給されます。書類不備や審査上の疑念がある場合は、発給遅延や追加提出指示があります。
一度申請が却下された場合、原則として6か月間は再申請できません。そのため、申請前の内容確認や採用企業・本人双方の丁寧な書類準備が重要です。
無事ビザが発給された後は、有効期間内(標準3か月以内)に日本入国手続きを進めましょう。
6. 日本入国と在留カード受取
エンジニア本人はビザ・パスポート・認定証明書を持って、指定の空港から日本に入国できます。認定証明書の交付後3か月以内が入国期限となるため、スケジュール管理が大切です。
主要7空港(成田・羽田・中部・関西・新千歳・広島・福岡)で入国する場合、到着時に在留カードが交付されます。他の空港では一時的な証明スタンプが押され、後日住民登録後に在留カードが郵送される場合もあります。
在留カードは日本での住居契約や銀行口座開設など、生活全般に必須となる法的身分証明書です。入国後14日以内に、市区町村役場で住民票作成と住所登録を完了させる必要があります。
【日本在住】外国人エンジニアが就労ビザの取得手順
日本に滞在している外国人エンジニアが新たに就労ビザを取得する際は、以下の4つの段階に分かれます。
詳しく解説します。
- 就労ビザの取得手順
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- 雇用契約を結ぶ
- 在留資格変更の申請
- 審査結果の通知を受け取る
- 新しい在留カードの受取
1. 雇用契約を結ぶ
エンジニアと採用企業は、就労ビザに適合した業務内容を記載した雇用契約書を締結します。契約書は日本語と外国人の母国語の両方で準備し、専門用語の理解をしておくことが重要です。
雇用契約で明記すべき主な内容は以下の通りです。
- 就労ビザに適合した具体的な職務内容
- 給与や労働時間などの詳細な労働条件
- 勤務開始予定日と雇用期間
- 在留資格変更が許可された場合に契約が有効となる旨
備考欄には「在留資格変更が許可された時点で契約が正式に有効となる」と明記しておくとトラブル防止になります。職務内容や労働条件も具体的に記載し、後の申請手続きに支障がない内容にしましょう。
2. 在留資格変更の申請
雇用契約締結後、申請者本人が出入国在留管理局へ在留資格変更の申請を行います。申請先はエンジニアの現住所、または勤務先を管轄する入管となります。
申請時に持参する必要書類は以下の通りです。
- 在留資格変更許可申請書
- パスポートと現在の在留カードの原本
- 新しい雇用契約書と労働条件通知書
- 申請理由書や経歴書
- 企業の登記事項証明書などの会社資料
申請内容や業務により追加書類の提出や詳細説明が求められるケースも頻繁にあります。書類に不備があると受理されないため、事前の入念な準備と確認が不可欠です。
3. 審査結果の通知を受け取る
申請内容に問題がなければ、おおよそ2週間から1か月程度で審査結果の通知ハガキが届きます。ハガキには新しい在留カードの交付案内や、受取場所と必要事項が記載されています。
万が一、追加資料が必要となった場合は速やかに対応しましょう。遅延や誤記が発生した際は審査が長引くので、ハガキ到着まで申請内容の控えも大切に保管します。
4. 新しい在留カードの受取
審査通過の通知ハガキを受領後、本人が直接管轄の入国管理局に出向き新しい在留カードを受け取ります。在留カード受取時の持参書類は、以下の通りです。
- 有効なパスポート
- 現在使用中の在留カード
- 審査結果通知のハガキ
- 申請時に受け取った申請受付票
新しい在留カードが交付された時点で、変更後の在留資格での就労が正式に認められます。受取後は、14日以内に市区町村役場で住所変更等の届出手続きを完了させる必要があります。
外国人エンジニア雇用の時に企業が準備しないといけない書類一覧
外国人エンジニアの雇用では、雇用形態や在留資格によって企業と本人が揃えるべき書類が異なります。ここでは、以下のケース別で準備が必要な書類を解説します。
- ケース別で準備が必要な書類
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- 入国前のケース
- 日本在住のケース
入国前のケース
海外からエンジニアを雇用する場合、在留資格認定証明書の申請時に企業と本人双方で多くの書類を準備する必要があります。企業側と本人側で準備が必要な書類は以下の通りです。
準備者 | 必要書類 | 用途・注意点 |
---|---|---|
企業側 | 雇用契約書(日本語・母国語両方) | 在留資格申請の基礎資料 |
企業側 | 労働条件通知書、雇用理由書 | 雇用の妥当性を証明 |
企業側 | 登記事項証明書、定款の写し | 企業の法的地位を証明 |
企業側 | 決算書・損益計算書、会社パンフレット | 事業安定性の証明 |
本人側 | 卒業証明書、職務経歴書 | 学歴・経験の証明 |
本人側 | パスポート、履歴書、証明写真 | 身元確認用 |
入国前は在留資格認定証明書申請時に上記をまとめて提出し、交付後に本人が現地でビザ申請を行います。書類の不備や記載内容の誤りがあると審査が長期化するため、事前の入念な確認が必要です。
日本在住のケース
日本に在住する外国人の在留資格変更では、新たな雇用内容を明示する企業書類と現行資格の証明書類が中心となります。企業側と本人側で準備が必要な書類は、以下の通りです。
準備者 | 必要書類 | 用途・注意点 |
---|---|---|
企業側 | 新雇用契約書、労働条件通知書 | 変更後の雇用条件を明示 |
企業側 | 雇用理由書、登記事項証明書 | 雇用の必要性と企業信用性 |
企業側 | 定款の写し、会社案内 | 事業内容の詳細説明 |
企業側 | 決算書・損益計算書 | 経営安定性の証明 |
本人側 | 現行の在留カード、パスポート | 現在の法的地位確認 |
本人側 | 履歴書・職務経歴書、資格証明書 | 経歴と能力の証明 |
日本在住の場合は在留資格変更申請と合わせて上記の書類を用意し、管轄入管で手続きを行います。現行資格からの変更理由や新しい職務内容との整合性が重視されるため、説明資料の充実が重要です。
外国人採用にかかる具体的な費用はいくら?コストを抑えるコツも紹介
外国人エンジニア雇用の際の注意点
外国人エンジニアを日本で雇用する際には、以下の点に注意しておく必要があります。
詳しく解説します。
- 注意点
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- 観光ビザは就労ビザに含まれない
- 留学生の在留資格も確認する
観光ビザは就労ビザに含まれない
観光ビザは日本国内での仕事を認めていないため、エンジニアとしての就労も認められません。もし外国人が観光ビザのまま業務に従事した場合、不法就労として厳重な罰則対象となります。
雇う側は必ず「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザへ切り替えられているか確認が必要です。就労ビザに変更せず働き始めてしまった場合、企業・本人双方に大きな法的リスクが生じるため注意しましょう。
留学生の在留資格も確認する
留学生がアルバイトや就労を希望する場合には、「資格外活動許可」を必ず取得しなければなりません。許可を得ずに働かせると違法就労となり、企業側だけでなく本人も処分の対象となります。
フルタイム雇用や正社員登用を検討する際は、在留資格変更や卒業見込みを正しく手続きする準備が大切です。就労可能な時間も厳格に制限されており、基準を超えて雇用してしまうと法律違反になるため注意が必要です。
外国人エンジニアのまとめ
日本には29種類の在留資格が存在しますが、外国人エンジニアとして働くためには特定の就労可能な在留資格の許可が必要です。在留資格に加えて、日本への入国時には該当するビザを取得しなければ正規雇用として就業できません。
企業が外国人エンジニアを雇用する際は、審査時に必要な各種書類を細かく準備することが求められます。観光ビザやその他の目的外資格での雇用は厳格に禁止されており、在留資格内容と一致する業務でなければならない点には注意が必要です。
外国人エンジニアの採用を成功させるためにも、ぜひ本記事を参考にして適切な在留資格の選定と正確な書類準備を行ってください。