外国人材の雇用を検討する際、特に多様な業務に従事させたい場合、「技術・人文知識・国際業務」と「特定活動46号」のどちらを選ぶべきか、不法就労のリスクを避けながら最適な選択をしたいと悩んでいませんか?
本記事では、2019年に新設された「特定活動46号」の幅広い業務範囲や厳格な申請要件を「技術・人文知識・国際業務」との違いに焦点を当てて徹底的に解説します。
貴社のニーズに最適な在留資格を理解し、トラブルなく外国人材を雇用する道筋が見えてくるでしょう。
特定活動46号とは?
特定活動46号とは、高度な日本語運用能力を備えた外国人留学生が日本の大学や大学院修了後、より広い職域で活躍するために新設された在留資格です。
この資格は日本社会における少子高齢化に起因するサービス業や販売業、事務部門など多岐にわたる分野での労働力不足を緩和するとともに、従来専門的な仕事に限定されていた外国人留学生の就業機会を拡大することを目的に、2019年5月に導入されました。
本制度の導入によって、日本の大学等で専門的な知識や技能を習得した外国人材が、「技術・人文知識・国際業務」といった従来の在留資格では認められにくかった、より多様な職務に就くことが可能になりました。
滞在期間は3ヶ月、6ヶ月、1年、3年、5年のいずれかに設定され、申請内容や審査結果に応じて決定されますが、卒業後2年間については原則として1年ごとの更新が認められます。更新回数に上限はないため、長期的な就労が可能です。さらに、一定の要件を満たすことで、配偶者や子供の同伴も許可されます。
留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学等卒業者)についてのガイドライン
特定活動46号の申請要件
特定活動46号の資格を得るためには、以下の厳格な条件を満たす必要があります。
- 日本の大学または大学院を卒業・修了し、学位を取得していること
- 日本語能力試験N1またはBJTビジネス日本語能力テストで480点以上を取得していること
- 日本人と同等以上の報酬で雇用されていること
- 日本語を使ったスムーズなコミュニケーションが求められる業務であること
- 日本の大学(院)で得た幅広い知識や応用力を活かす業務であること
特定活動46号は日本国内で就労するための在留資格で、いくつかの重要な要件と特徴を持ちます。まず、勤務形態は日本国内の公的機関または私的機関において常勤の職員として働くことが必須です。短時間労働や派遣社員としての勤務は認められません。勤務先は指定され、転職の際は在留資格変更許可申請が必要です。
業務範囲は非常に広く、従来の「技術・人文知識・国際業務」では難しかったサービス業務や製造業務、現場作業などにも従事できます。ただし、単純作業のみは不可で、学術的素養を基盤とする一定レベル以上の業務、または将来的に従事する見込みがあることが条件です。
禁止業務としては、業務独占資格が必要な業務や風俗営業に関連する業務があります。在留期間は3ヶ月から5年まで許可されますが、初回は1年となることが多いです。更新回数に制限はなく、家族帯同も可能です。特定活動46号は取得要件が厳しいものの、汎用性が高く、日本の「総合職」のような柔軟な働き方を実現できます。
特定活動46号の就労可能職業
就労が認められる業務の要件として、特定活動46号の適用を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 日本語でスムーズなコミュニケーションが求められる業務
- 大学・大学院で身につけた幅広い知識や応用力を活かせる業務
特定活動46号は単に指示された作業を行うだけの仕事は認められません。ただし、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では難しかった、一般的なサービス業や製造業、現場作業といった業務も、大学で得た知識や能力を活かす業務と組み合わせることで従事することが可能です。
具体的な業界・職種としては、以下のようなものが挙げられます。
- サービス業:ホテル・飲食店・観光施設での接客(通訳を兼ねる)
- 製造業:電子部品などの製造、品質管理、生産管理
- IT業界:エンジニア、プログラマー、データ分析などの技術職
- 営業職:日本語と母国語を活かした営業活動
- 教育・研修:語学教室や企業内での講師業務
特定活動46号に基づく就労は原則としてフルタイムの常勤雇用形態に限られ、アルバイトやパートタイムでの勤務は認められていません。また、法律で特定の資格を持つ者のみが行えると定められている業務、および風俗営業に関連する業務への従事は禁止されています。
特定活動46号と「技術、人文知識、国際業務」との違い
特定活動46号は、2019年5月に設けられた比較的新しい在留資格です。日本の大学などを卒業し、高度な日本語運用能力を有する外国人が広い職務に携わることを可能にする点がその特色と言えます。他方、「技術・人文知識・国際業務」ビザは、学術的な背景や専門知識を必要とする業務に限定される傾向があります。
これら2つの在留資格の主な相違点は、以下の3点です。
- 3つの違い
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- 申請要件
- 就労場所
- 業務内容
なお、「技術・人文知識・国際業務」に関する詳細な情報は、こちらから確認できます。
申請要件
特定活動46号は日本の大学を卒業した高い日本語能力を持つ人が対象となるため、「技術、人文知識、国際業務」と比較して、申請条件がかなり厳しく設定されています。
項目 | 特定活動46号 | 技術・人文知識・国際業務 |
---|---|---|
最終学歴 | 日本の大学(院)、短期大学、高等専門学校を卒業。または、認定された専門学校を修了し高度専門士の称号を得ている | 大学(短大・院)を卒業、日本の専門学校を卒業 |
実務経験 | 不要 | 10年の実務経験でも申請可能 |
日本語能力 | 日本語能力検定N1 または BJTビジネス日本語能力テスト480点以上。または、大学または大学院において「日本語」を専攻して卒業 | 特定の日本語能力要件は明記されていない |
特定活動46号を希望する申請者は日本の大学や大学院、短期大学、高等専門学校のいずれかを卒業している必要があります。2024年2月末の制度改正によって、短期大学や高等専門学校の卒業生、専門職大学の前期課程修了者も申請対象となりました。
ただし、これらのケースでは独立行政法人である大学改革支援・学位授与機構から学士の学位を正式に授与されていることが不可欠です。加えて、修業期間が4年以上の専門課程を修了し、「高度専門士」という称号を得た専門学校の卒業者も申請資格が与えられます。
さらに、このビザを取得するためには、高度な日本語能力が求められます。日本語能力検定N1に合格するか、BJTビジネス日本語能力テストで480点以上を獲得するか、あるいは大学や大学院で「日本語」を専門的に学んで卒業していることが必要です。
他方、「技術・人文知識・国際業務」に関しては、日本の大学(短大・院)の卒業者、日本の専門学校の卒業者、または10年以上の実務経験を有する者が申請可能です。この点から見ると、「技術・人文知識・国際業務」は学歴に関する要件が比較的緩いと言えるでしょう。
就労場所
特定活動46号はその在留資格の特性上、勤務先が指定される点が「技術・人文知識・国際業務」と大きく異なります。
項目 | 特定活動46号 | 技術・人文知識・国際業務 |
---|---|---|
勤務先 | 日本の公私の機関と契約を行い、常勤職員として勤務 | 日本の公私の機関と契約を行い勤務 |
派遣社員 | 不可 | 可 |
勤務形態 | 常勤の職員として従事することが前提(フルタイムに限る)。副業は認められない | 常勤職員として勤務。届出と条件を満たせば副業も可能 |
勤務先指定 | 在留カードに加えパスポートに「指定書」が貼付され、勤務先が明記される | 特定の勤務先指定は通常なし |
転職時の手続き | 転職時にはその都度「在留資格変更許可申請」が必要 | 転職時に「在留資格変更許可申請」の提出は不要 |
制限業種 | 法律上資格を有する業務及び風俗関係業務は不可 | 制限業種は特定活動46号と共通する部分もあるが、風俗関係業務への制限は類似している可能性が高い |
特定活動46号の就業先は日本の公私の機関に限られ、正規雇用者としてのフルタイム勤務が求められます。特筆すべき違いとして、派遣労働者としての働き方は認められていません。この理由は在留資格を得る際にパスポートに添付される指定書に、勤務先が明確に記載されることに起因します。
特定活動46号の資格で就労する場合、転職を行うたびに「在留資格変更許可申請」の手続きを行い、許可を得た後に新しい仕事をしなければなりません。
これに対し、「技術・人文知識・国際業務」では、公私の機関との契約に基づいて働くという共通点がある一方で、派遣社員としての勤務も可能です。適切な届け出を行い、必要な条件を満たせば副業も認められています。また、転職の際に「在留資格変更許可申請」は原則として不要です。
両方の在留資格において、法律で定められた特定の資格を必要とする業務、および風俗関連の業務に従事することは、法律で禁止されています。
業務内容
特定活動46号の最大の特徴は、「技術・人文知識・国際業務」よりも幅広い業務に従事できる点にあります。
業務の種類 | 特定活動46号 | 技術・人文知識・国際業務 |
---|---|---|
全体的な業務範囲 | 日本語を使用し、かつ学術的素養を背景とする業務に加えて、単純労働なども可能。幅広い業務に従事可能 | 学術的素養を背景とする業務が基本。単純労働は認められても限定的 |
ビルメンテナンス・ベッドメイキング | 現場のアルバイトスタッフに指導教育・管理を行いつつ、自身も清掃業務を行うことが可能 | 本社勤務が基本で、原則として現場業務は不可 |
飲食店業務 | 現場スタッフの指導教育やシフト管理をしながら、現場業務に従事することが可能 | 基本的には複数店舗の管理者で、ホールスタッフなどの現場業務は研修時の一時的なものに限られる |
フライス盤の操作・設計業務 | 設計業務を行いながら、フライス盤の操作をし加工作業を行うことも可能 | 設計業務がメインで、フライス盤の操作は1日のうち一時的なものに限られる |
ホテルや宿泊業での通訳・ベルスタッフ・清掃業務 | 翻訳通訳に加えて、ベルスタッフやドアマン、客室の掃除などの業務も可能 | 日本人も同様に行っていることを前提に、ベルスタッフや清掃業務は付随業務で限定的な範囲内であれば可能 |
タクシー会社における観光案内を行うドライバー | 観光プランの企画立案を行いつつ、ドライバーとして観光案内も可能 | バックオフィス部門における企画業務であれば認められる |
食品工場における技能実習生等への指導 | 日本人従業員からの指示を外国籍スタッフに通訳しつつ、自身も製造ラインに入って作業を行うことも可能 | 通訳で伝達するのみでラインでの作業は不可 |
特定活動46号は大学で得た知識や高い日本語能力を活かし、現場作業に近い業務や指導や管理を伴う軽作業にも携わることが可能です。この点が「技術・人文知識・国際業務」との大きな相違点と言えるでしょう。これは、日本の企業が求める多様な業務に対応できる人材、いわゆる「総合職」のような働き方を認めることを意図しています。
対照的に、「技術・人文知識・国際業務」は名称が示す通り、特定の技術や人文科学、国際的な業務に特化しており、専門知識や学術的なバックグラウンドを必要とする業務が中心となります。したがって、単純な作業や肉体労働は原則として許可されず、例外的に発生する場合でもその範囲は限定的です。
特定活動46号の雇用を検討する際の3つの注意点
特定活動46号の在留資格は日本の総合職に似た、多様な業務に対応できる汎用性が魅力です。しかし、この資格を持つ人材の雇用を考える際には、以下の3点に注意することが必要です。
- 3つの注意点
-
- 「技術、人文知識、国際業務」にこだわりすぎない
- それぞれ在留資格ごとの在留期間を確認する
- 転職の際は「在留資格変更許可申請」が必要であることを把握しておく
「技術、人文知識、国際業務」にこだわりすぎない
外国籍の人材を「特定活動46号」の資格で雇用する際、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格ばかりに気を取られるケースが見受けられます。しかし、この状況は「不法就労」と判断されるリスクを孕んでいるため、注意が必要です。
実際の仕事内容において、現場作業や単純作業、顧客対応といった業務の割合が大きい場合に実態と異なる「雇用理由書」を提出し、「技術・人文知識・国際業務」の許可を得ると、提出した「理由書」と実際の業務内容との間に乖離が生じ、「不法就労」とみなされる可能性があります。この場合、人材を雇用する企業も不法就労助長罪に抵触する恐れがあり、非常に慎重な見極めが求められます。
「特定活動46号」は日本語でのスムーズなコミュニケーションを必要とする業務に加え、日本の大学などで習得した広範な知識や応用力を活かせる業務への従事を条件としています。そして、「技術・人文知識・国際業務」では基本的に認められていないサービス業や製造業など、より幅広い業務に携わることが可能な点がこの資格の大きな利点です。
つまり、日本語を活用し、大学などで培った学術的なバックグラウンドを基盤とする業務に加え、単純作業も許容されるという点で、「技術・人文知識・国際業務」が学術的素養に基づく業務を主とし、単純作業が限定的である点とは異なります。
ただし、「特定活動46号」であってもひたすら指示を受けるだけ、あるいは日本語を全く使用しないような現場作業に終始することは認められません。あくまで、高度な日本語能力と大学などで培った知識・応用能力を業務に活かすことが前提となります。
それぞれ在留資格ごとの在留期間を確認する
滞在資格の種類によって、許可される滞在期間はそれぞれ異なります。
例えば、「特定活動46号」の場合は3ヶ月、6ヶ月、1年、3年、5年のいずれかの滞在期間が付与されますが、一般的に「留学」からの資格変更時や最初の更新許可時に決定される滞在期間は「1年」となることがほとんどです。新卒採用の場合、この「1年」の期間が連続して2回適用されるケースも見られます。
一方で、「技術・人文知識・国際業務」では日本の大学を卒業し、高度な日本語能力を有する人材の場合、就職先や担当業務の内容にもよりますが、比較的「3年」または「5年」の滞在資格が許可されやすい傾向にあります。
上記の点を考慮すると、「特定活動46号」の滞在期間が原則として1年となることは、不利な点として捉えられる可能性があります。
転職の際は「在留資格変更許可申請」が必要であることを把握しておく
「特定活動46号」は、就労可能な企業が限定されています。具体的には在留カードの発行に加え、パスポートには勤務先が記載された指定書が添付されます。したがって、転職によって就業する企業が変わる際には、毎回「在留資格変更許可申請」の手続きが求められます。許可を取得した後でなければ、就労することはできません。
これに対し、「技術・人文知識・国際業務」では、転職の際に「在留資格変更許可申請」を提出する必要はありません。この点が、「特定活動46号」と「技術・人文知識・国際業務」の相違点の一つです。
外国人採用のために必要なビザについて、詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
特定活動46号の申請必要書類一覧
「特定活動46号」の在留資格を申請する際には、以下の書類が必要になります。なお、『技術・人文知識・国際業務』で必要とされる「決算書」や「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」は不要です。
- 申請書
- 証明写真(4cm×3cm)※申請前3ヶ月以内に撮影された者
- 返信用封筒(在留資格認定証明書交付申請時のみ。404円の切手を貼付)
- パスポート及び在留カード(在留資格変更許可申請時のみ)
- 申請人の活動内容を明らかにする資料(労働条件通知書等)
- 雇用理由書(様式自由)
- 申請人の学歴を証明する文書(卒業証書の写し又は卒業証明書)
- 申請人の日本語能力を証明する文書(N1又はJTビジネス日本語能力テスト480点以上、外国の大学で日本語を専攻した場合はその内容の書かれた卒業証明書)
- 事業内容を明らかにする次のいずれかの資料
- 勤務先等の沿革、役員、組織、事業内容(主要取引先と取引実績を含む。)等が記載された案内書
- その他の勤務先等の作成した上記aに準ずる文書
- 勤務先のホームページの写し(事業概要が確認できるトップページ等のみで可)
- 登記事項証明書
「特定活動46号」はその業務範囲の広さから、業務の実態を的確に捉えずに申請すると、許可が得られないばかりか、違法な就労と判断されるリスクがあります。したがって、他の在留資格との適合性を慎重に検討することが不可欠です。
日本での外国人採用について、詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
特定活動46号のまとめ
この記事では、特定活動46号について解説してきました。
「特定活動46号」は、高度な日本語能力を持つ外国人留学生が日本の大学卒業後に幅広い職域で活躍できるよう2019年に設けられた在留資格です。少子高齢化による労働力不足を緩和し、従来の資格では難しかった多様な職務への就労を可能にします。
資格取得には学位や日本語能力試験N1合格、日本人と同等の報酬などが求められ、大学で得た知識を活かす業務であることが条件です。勤務形態は常勤職員に限られ、原則として1年ごとの更新が可能です。
「技術・人文知識・国際業務」との違いは、申請要件や就労場所、業務内容にあります。「特定活動46号」はより高い日本語能力が求められ、勤務先が指定される一方、幅広い業務に従事できます。
企業が雇用を検討する際は「技術・人文知識・国際業務」にこだわりすぎず、業務の実態に合わせた資格を選択することが重要です。また、在留期間や転職時の手続きの違いを把握し、適切な雇用管理を行うことが不可欠です。