日本で働く・暮らす外国人にとって、日本語能力の証明は重要なポイントの一つです。
日本語能力の証明には、JLPT(日本語能力試験)とJFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)の二つがあり、それぞれに異なる点があります。
本記事では、JFT-Basicの概要やJLPT(日本語能力試験)との違い、評価基準のポイントについてわかりやすく解説します。
JFT-Basicとは?
JFT-Basicとは、外国人が日本で生活や就労をする上で必要な基礎的な日本語能力を測定するための試験です。正式名称は「Japan Foundation Test for Basic Japanese」で、日本語を母語としない外国人を対象としています。
JFT-Basicは、特定技能制度の導入に伴い、より実践的な日本語力の判定を目的として2019年に開始されました。日本国内だけでなく、海外の多くの国と地域でも受験が可能で、技能実習を終えた外国人や日本での就労を希望する外国人労働者に広く利用されています。
JFT-Basicは、特に特定技能1号の取得を目指す方にとっては非常に重要なステップとなるため、早めの受験対策が必要なテストといえます。
JFT-BasiとJLPTの違い
JLPT(Japanese‑Language Proficiency Test/日本語能力試験)は、非日本語母語話者を対象に日本語の総合的な能力を測定する国際的な資格試験で、N5(初級)~N1(上級)の5段階に区分されています。
試験範囲には「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」が含まれ、マークシート方式で実施されます。また、国内では日本国際教育支援協会(JEES)、海外では国際交流基金(JF)が運営・実施に関わっている点も特徴的です。
参考:日本語能力試験 JLPT
JFT-BasiとJLPTの違いとその詳細は以下の通りです。
比較項目 | JFT-Basi | JLPT |
---|---|---|
実施回数 | 原則月1回(年12回相当) | 原則年2回 |
実施国・地域 | 日本国内およびアジア中心の複数国 | 日本国内および約80か国・地域 |
試験形式 | コンピュータベース(CBT:Computer Based Testing)方式 | 紙ベースのマークシート形式 |
【実施回数】
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【実施国・地域】
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【試験形式】
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実施回数・実施国・試験形式ともにJFT-BasiとJLPT双方にメリット・デメリットがあるため、自身に合った試験を選ぶようにすると効率的に合格が目指せるでしょう。
JFT-Basiの詳細
ここでは、JFT-Basiの詳細を以下の項目に分けて解説します。
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試験内容
JFT-Basicの試験は4つのセクションに分かれており、それぞれの領域で「使える日本語力」が評価されます。
セクション別の試験内容と目的は以下の通りです。
セクション名 | 問題数 | 内容 | 測定される能力・目的 |
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文字・語彙 | 約12問 | ひらがな・カタカナ・漢字の読み、基本語彙の意味・使い方など | 読み書きの基礎や日常語彙の理解力を測定 |
会話・表現 | 約12問 | 会話の中で適切な表現や文法を選択する問題 | 状況に応じた自然な日本語表現の理解度を測定 |
聴解 | 約12問 | 日常会話やアナウンスを聞き取り、質問に答える | 実生活で必要な日本語音声の理解力を評価 |
読解 | 約12問 | 掲示物・案内文・会話文などの読解問題 | 生活に密着した文章から必要な情報を正しく読み取る力を測定 |
総試験時間は約60分で、合計50問前後が出題されます。各セクションの得点はスコアに反映されますが、合否判定は総合得点(尺度得点)に基づいて判断されます。
JFT-Basicは、国際的な言語能力基準であるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考にしており、以下の「日本語教育の参照枠」で定められているA1~A2レベルの日本語力を測定する設計です。
熟達した言語使用者 | C2 | 聞いたり、読んだりしたほぼ全てのものを容易に理解することができる。自然に、流ちょうかつ正確に自己表現ができ、非常に複雑な状況でも細かい意味の違い、区別を表現できる。 |
C1 | いろいろな種類の高度な内容のかなり長いテクストを理解することができ、含意を把握できる。言葉を探しているという印象を与えずに、流ちょうに、また自然に自己表現ができる。社会的、学問的、職業上の目的に応じた、柔軟な、しかも効果的な言葉遣いができる。 | |
自立した言語使用者 | B2 | 自分の専門分野の技術的な議論も含めて、具体的な話題でも抽象的な話題でも複雑なテクストの主要な内容を理解できる。お互いに緊張しないで熟達した日本語話者とやり取りができるくらい流ちょうかつ自然である。 |
B1 | 仕事、学校、娯楽でふだん出合うような身近な話題について、共通語による話し方であれば、主要点を理解できる。身近で個人的にも関心のある話題について、単純な方法で結び付けられた、脈絡のあるテクストを作ることができる。 | |
基礎段階の言語使用者 | A2 | ごく基本的な個人情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応じることができる。 |
A1 | 具体的な欲求を満足させるための、よく使われる日常的表現と基本的な言い回しは理解し、用いることもできる。もし、相手がゆっくり、はっきりと話して、助け船を出してくれるなら簡単なやり取りをすることができる。 |
出典:日本語教育の参照枠 報告
JFT-Basicは250点満点であり、200点以上で上記の表にあるA2相当の日本語能力があるとみなされます。また、このA2相当の基準をクリアすれば、JLPTにおけるN4レベルと同等と判定され、特定技能1号の所得資格を満たせます。
申し込み方法
JFT-Basicの受験申し込みは、個人予約と複数名をまとめて申し込む団体予約の2つの方法があります。
どちらもオンライン上での手続きが中心となりますが、それぞれの流れや条件が異なるため、申込前に確認しておく必要があります。
個人予約と団体予約の申し込み手順については以下の通りです。
【個人予約】
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【団体予約】
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実施場所
日本以外でJFT-Basicの試験が開催されている国は以下の通りです。(2025年9月現在)
- バングラデシュ
- カンボジア
- インド
- インドネシア
- モンゴル
- ミャンマー
- ネパール
- パキスタン
- フィリピン
- スリランカ
- タイランド
- ウズベキスタン
- ベトナム
詳しい開催日程や会場については以下のページを参考にしてください
【2025年最新】外国人労働者国別ランキング!日本における割合や推移も解説
JFT-Basiの問題例
JFT-Basicの問題例は無料で閲覧でき、以下のページで確認できます。
出典:第一問|JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テスト
上記のページの第一問では、女の子のイラストを見て日本語ではどのような表情に見えるかを日本語で回答するようになっています。
また、JFT‑Basicの公式サイトでは「学習のヒント」として無料で利用できる以下の教材について紹介されています。
教材名 | 内容・特徴 |
---|---|
いろどり 生活の日本語(教科書) | 生活場面に即した題材を扱った教材 |
いろどり 本語オンラインコース | ・教科書をベースに、動画・練習コンテンツ付きでオンライン学習できる
・スマホ・タブレット・PC対応 |
JFにほんごeラーニング「みなと」 | 国際交流基金の日本語学習プラットフォームで、複数の日本語コースや教材、リンク先アプリをまとめて使える |
上記の教材や問題例を活用すれば、効率的に学習が進められるでしょう。
JFT-Basi受験における2つの注意点
JFT-Basi受験における注意点はおもに以下の2点です。
ここでは、下記の注意点について解説します。
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再受験には45日間空けないといけない
JFT-Basicは再受験が可能ですが、前回の受験日から45日間空けないと再受験できないルールがあります。
再受験ルールの概要は以下の通りです。
ルール | 概要 |
---|---|
再受験の回数 | 何度でも可能 |
間隔制限 | 前回受験日から45日後以降 |
予約システム | 制限に満たない日は自動で予約不可 |
違反時 | 合格しても取り消される |
再チャレンジを考えている方は、復習と計画的なスケジューリングを意識して取り組むようにしましょう。
余裕をもって予約をする
JFT-Basicの受験を検討している方は、必ず早めに試験予約を行うようにしましょう。受験希望者が集中する地域や時期では、すぐに予約枠が埋まってしまうケースが多く見られます。
特に特定技能ビザの取得を目指す外国人が多いエリアでは、予約開始と同時に満席となることもあるため、余裕をもったスケジューリングが欠かせません。
在留資格取得や更新の期限が迫っている方は、万が一に備えて複数回の受験を見据えたスケジューリングを検討するようにしてください。
企業が採用する時の日本語能力の評価ポイント
外国人採用において「日本語能力」を評価する際、多くの企業がJLPT N1の合格証を基準のひとつとしています。しかし、N1を取得しているからといって、必ずしも実務で十分な日本語力があるとは限りません。
JLPTは、語彙・文法・読解・聴解といった「知識ベースの日本語能力」を測る試験で、スピーキングやライティングは出題対象外となっているため、JLPT合格者には以下のような弱点がある場合があります。
- 敬語やビジネス表現が苦手
- 会話の流れが読み取れない
- 語彙力と会話力にギャップがある など
実務に耐える日本語力を評価するには、保有する資格だけで判断するのではなく、面接時に会話力を直接確かめる対応が大切です。
面接の内容に「実際の業務を想定した質問」や「ロールプレイ」などを意図的に組み込むと、応募者の生きた日本語力を推し量れます。
自社の業務の遂行やほかの社員とのコミュニケーションに問題がない日本語能力を保有しているかの確認は、中長期的な雇用にも関わる重要な項目の一つといえます。
JFT-Basicのまとめ
JFT-Basicは、特定技能ビザの取得要件として重要視される日本語試験であり、外国人労働者の日本語力を「実生活に使えるレベル」で客観的に測るツールとして有効です。
JLPTとは異なり、日常生活や職場での日本語運用能力に焦点を当てた設計であり、定期的に受験できる点も大きな魅力です。ただ、JFT-Basicにおいてもスコアが高いからといって、必ずしも職場での業務が問題なくこなせるとは限りません。
実際の業務では、「話す」「聞く」「伝える」といった双方向のコミュニケーション能力が問われます。企業側は採用時にスコアだけで判断するのではなく、面談やロールプレイを通じて、業務に必要な会話力や理解力が備わっているかを実際に確かめることが大切です。
JFT-Basicをうまく活用しつつ、現場でのコミュニケーションに支障が出ないかを総合的に見極めれば、長く活躍してもらえる外国人材の雇用が実現できるでしょう。